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札幌高等裁判所函館支部 昭和26年(ネ)53号 判決 1952年4月21日

控訴人 玉川石夫

訴訟代理人 浅山正三郎 外一名

被控訴人 玉川石太郎

訴訟代理人 土家健太郎 外一名

主文

原判決を取消す。

被控訴人の請求を棄却する。

訴訟費用は第一、二審とも被控訴人の負担とする。

事実

控訴代理人は主文と同旨の判決を求め、被控訴代理人は控訴棄却の判決を求めた。

当事者双方の事実上の陳述は、被控訴代理人において、(一)被控訴人が昭和十五年四月十二日なした隠居は隠居をなす意思を欠く無効のものである。仮りにそうでないとしても家督相続人たる玉川与三郎が相続の単純承認をしていないので無効である。(二)控訴代理人の左記主張はいずれも理由がないと述べ、控訴代理人において、(一)原判決の手続は法律に違背している。すなわち原審における昭和二十四年八月十日の第四回口頭弁論期日には列席裁判官中水野正男裁判官が前回の口頭弁論期日に関与した森松万英裁判官と交替変更あり又昭和二十四年九月七日の第五回口頭弁論期日には列席裁判官中森松万英裁判官がさらに前回の口頭弁論期日に関与した水野正男裁判官と交替変更があつたにも拘らず、いずれも弁論更新の手続をなさず、且つその後も弁論更新の手続をしないまま昭和二十四年十一月十四日弁論を終結し、判決言渡期日を昭和二十四年十一月三十日と指定したが、右言渡期日に弁論の再開をなし、昭和二十六年三月一日に至り本件の審理及び裁判を合議体でなすことを取消す旨決定し昭和二十六年三月二十六日の口頭弁論期日には水野正男裁判官の単独審理となつたが弁論更新の手続をなさず、さらに次回の昭和二十六年四月十四日の最終弁論期日においては被控訴代理人のみが弁論を更新したのみで、控訴代理人及び控訴本人は弁論を更新しなかつたにも拘らず、そのまま同日口頭弁論を終結して昭和二十六年五月十七日水野正男裁判官によつて判決をなされたものである。したがつて原判決は民事訴訟法第八十七条の強行規定に違背して弁論を更新せず、基本たる口頭弁論に関与しない水野正男裁判官によつてなされた違法があるから、民事訴訟法第三百八十七条に則り取消さるべきものである。(二)隠居無効の訴は隠居の意思表示の無効を確定することをもつて目的とするものであるから、その無効を確定するについては法律上の利益が存する場合に限るべきものである。しかるに被控訴人は本件無効確定の法律上の利益の存在について何等の主張及び立証をなさず、又原審もこの点につき何等の釈明も審理もなさずして被控訴人の請求を認容したのは違法不当であるから原判決は取消さるべきものである。(三)仮りに被控訴人が玉川与三郎の単純承認を得ないで勝手に承認書を作成したものであつたとしても、被控訴人自身が隠居の意思をもつてその意思に基いて隠居届書を作成して署名捺印の上右承認書を添付し形式上適式なる書面を提出して届出をなし当該村長がその届出を受理して戸籍に登載し戸主変更の手続を完了した以上、たとい隠居の要件手続に欠缺があつたとしても隠居者に隠居意思の欠缺なき限り家督相続人の地位を安固ならしむる建前から隠居は無効となるものでないことは民法第九十三条旧民法第七百五十九条の法意に照らして明白であると述べたほかは原判決の事実摘示と同一であるからこれを引用する。

証拠として、被控訴代理人は甲第一、二、三号証、第四号証の一乃至五、第五号証の一、二、第六、七号証、第八号証の一、二、第九号証、第十号証の一乃至六、第十一号証の一、二を提出し、原審証人玉川スミ、入江ミナ、当審証人玉川スミ、大櫛喜六の各証言、原審及び当審における被控訴人玉川石太郎の各本人尋問の結果を援用し、控訴代理人は原審証人大清水富次郎、佐々木市三郎、当審証人大清水富次郎、佐々木市三郎、斎藤権四郎、山田周蔵、青山義美の各証言、原審における控訴人玉川石夫の本人尋問の結果を援用し甲第四号証の三、四、五は不知、その他の甲号各証は成立を認める、甲第二号証を援用すると述べた。

理由

まず、原判決の手続に控訴代理人主張のような法律違背があるかどうかの点を判断する。原審における昭和二十四年八月十日の口頭弁論期日に列席裁判官の交迭があつたけれども、右期日の弁論は延期され、次回期日たる昭和二十四年九月七日の口頭弁論には交迭前の裁判官が列席して当初の状態に復原されたことは、当該期日の口頭弁論調書の記載によつて明かであるから、その間当事者に従前の口頭弁論の結果を陳述させる要はなく、また控訴代理人主張のように口頭弁論の終結、再開あり、さらに合議体から単独審理に移された後、昭和二十六年三月二十六日の口頭弁論期日に裁判官の交迭があつたが、同期日には何等の弁論も行われなかつたことは、それぞれ当該口頭弁論調書竝びに決定書の各記載により明瞭であるから、これまた当事者に従前の口頭弁論の結果を陳述させる要はない。さらに昭和二十六年四月十四日の最終口頭弁論において裁判官の交迭があつたので、被控訴代理人だけが従前の口頭弁論の結果を陳述したことは、該口頭弁論調書の記載によつて明かであるが、民事訴訟法第百八十七条第二項にいう口頭弁論の結果の陳述は、改めて弁論し直すのではなく報告的意義をもつにすぎないものであるから、当事者双方が揃つてする必要はなく、当事者の一方だけですれば足りると解すべきである。したがつて被控訴代理人だけが従前の口頭弁論の結果の陳述をしたからといつて右条項に違背するものとはいわれない。而して右口頭弁論調書には「当事者双方は他に主張竝立証はないと述べた」旨の記載があるから、右期日の口頭弁論は民事訴訟法第百八十七条第一項にいう判決の基本たる口頭弁論にほかならず、この弁論に関与した裁判官によつてなされた原判決には控訴代理人主張のような法律違背はない。

すすんで本案について判断するに、被控訴人が昭和十五年四月十二日、被控訴人の長男で法定の推定家督相続人たる亡玉川与三郎が相続の単純承認をなす旨の書面を添付して北海道亀田郡七飯村長に隠居の届出をなしたことは当裁判所が真正に成立したものと認める甲第一号証(戸籍謄本)に原審における被控訴人玉川石太郎の本人尋問の結果及び当審証人大櫛喜六の証言を綜合してこれを認めることができる。而して被控訴人が右隠居届出当時すでに満六十年以上であつたことは甲第一号証により明かであり、被控訴人に隠居をなす意思のあつたことは原審及び当審における被控訴人玉川石太郎の各本人尋問の結果竝びに証人大清水富次郎、佐々木市三郎の原審及び当審における各証言によつてこれを認めることができ、さらに家督相続人たる玉川与三郎が完全の能力を有し且つ相続の単純承認をなしたことは証人大清水富次郎、佐々木市三郎の前記各証言に当審証人山田周蔵、青山義美の各証言、原審における控訴人玉川石夫の本人尋問の結果を合してこれを認めることができる。原審及び当審における証人玉川スミの各証言及び被控訴人玉川石太郎の各本人尋問の結果中右認定に反する部分は措信できず、他に以上の認定を覆すに足る証拠は見当らない。そうとすれば被控訴人のなした隠居は有効であつて、その主張するような瑕疵はないから、被控訴人の請求は認容するに由ないものといわなければならない。

よつて民事訴訟法第三百八十六条、第九十六条、第八十九条を適用して主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 原和雄 裁判官 小坂長四郎 裁判官 臼居直道)

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